保証人不要、初期費用なし…高齢者の希望の光?
前回の記事では、高齢者が賃貸住宅を探す際の厳しい現実と、住宅セーフティネット制度の理想と現実のギャップについてお伝えしました。
空き家900万戸なのに高齢者が借りられない理由:住宅セーフティネットの落とし穴
今回は、公的制度の「理想と現実」~UR賃貸住宅編~。
高齢者の住まい探しの選択肢として、多くの方が検討するであろうUR賃貸住宅に焦点を当てて掘り下げていきたいと思います。
UR賃貸住宅といえば、一般的に「保証人不要」「礼金・仲介手数料・更新料なし」という大きなメリットが思い浮かびます。
敷金は原則として必要 です。ただし、以下のような特徴があります。
UR賃貸の敷金制度
項目 | 内容 |
---|---|
敷金の金額 | 家賃の2ヶ月分が基本(例:家賃8万円なら敷金16万円) |
礼金 | 不要(0円) |
仲介手数料 | 不要(URは直接契約のため) |
更新料 | 不要(契約更新時の追加費用なし) |
保証人 | 不要(本人確認と収入証明でOK) |
返金の有無 | 退去時に原状回復費用を差し引いた残額が返金される |

敷金は「預け金」なので、退去時に大きな破損や汚損がなければほぼ全額返金されます。 初期費用としては、敷金+前家賃(+火災保険料程度)で済むため、一般賃貸よりもかなり安く済むケースが多いです。
これらの条件は、高齢者、特に単身者にとっては非常に魅力的なポイントです。

しかし、本当にUR賃貸住宅は、高齢者の住まい探しの「最適解」なのでしょうか?
私の個人的な印象や、実際に調べて分かったメリットとデメリット、そして入居のリアルについて、お伝えしたいと思います。
UR賃貸住宅の基本的なメリット(再確認)
まず、UR賃貸住宅が一般的に謳っているメリットを改めて確認しましょう。
- 保証人不要: 親族に頼ることが難しい高齢者にとって、これは非常に大きなメリットです。
- 礼金・仲介手数料・更新料なし: 初期費用や継続的な費用を抑えられるため、年金生活者にはありがたいポイントです。
- 管理体制の良さ: 大規模な団地が多く、共用部分の清掃や維持管理が行き届いていることが多いです。
これらのメリットだけを見ると、まさに高齢者の住まいの希望の光のように思えます。しかし、現実はそう単純ではありませんでした。
【実体験】人気のUR物件の「知られざる現実」

私がUR賃貸住宅について調べていて、そして個人的にも感じたのは、「メリットは確かにあるものの、実際に高齢者が希望する条件でURを見つけ、入居するのは容易ではない」という現実です。
人気エリアでは「空き待ち」が当たり前
UR都市機構のサイトで公開されている、令和6年3月31日時点の情報を元にグラフを作成してみました。
※データは「首都圏」(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、茨城県)のものになります。
1.年代ごとの「管理戸数」の推移

2.年代ごとの「空家戸数と空家率」の推移

このデータには各物件の立地条件や家賃・住戸面積は含まれていませんが、都心へのアクセスが良い、築浅、人気の設備を備えたUR物件は、空室率がさらに低く、ほとんど空きが出ません。
また都内や東京近郊以外でも、特に「駅近」や「生活利便性が高い」といった条件が揃う物件は、一度入居すると長く住み続ける人が多いため、空室率は極めて低い水準にあります。
なかなか空き室が出ないのには、URには更新料がないため、家賃が払える入居者は長く住み続ける傾向にあることも要因のひとつです。
これは、既存の入居者にとっては大きなメリットですが、新たにURへの入居を希望する高齢者にとっては、「空きが出ないため、そもそも物件を探すことが難しい」という厳しい現実を突きつけられます。
「古い割には家賃メリットなし」という印象
先ほどのグラフを見ると、昭和40年代に突出して戸数が増えていて、高度経済成長期に大量供給されたことが一目で分かります。

つまり、URの賃貸物件は、築50年以上の古いもの(まさに我々と同年代!)が非常に多いということになります。
築年数が古い団地が多いURですが、近隣の民間賃貸物件と比較しても、家賃が特に安いというわけではありません。
むしろ、立地や管理の良さを考慮すると、相場並み、あるいはやや高めの家賃設定になっていると感じる物件も少なくありませんでした。
これは、安さを求めてURを検討する高齢者にとっては、期待外れとなる可能性があります。
「再生」の方向性と、シニア世代のニーズのずれ
近年、URでは老朽化した団地の再生プロジェクトが進められています。
三浦半島の「天空の廃墟」と呼ばれた団地の再生のように、若者や起業家向けの店舗やスタジオなどが整備され、新たなコミュニティを創出しようとする試みは素晴らしいと思います。
旧田浦月見台住宅「天空の廃墟」に息吹(タウンニュース様の記事)
しかし、私のような、なんの野望もないオヤジからすると、そのような活気あふれる環境は、必ずしも求めているものではありません。
URの再生は、若年層の呼び込みには効果的かもしれませんが、静かで穏やかな老後を求める高齢者にとっては、必ずしも理想の環境とは言えない場合があります。
また、共用スペースの活用方法やイベントなども、若者向けに偏っている可能性も否定できません。

そして、古い団地ではエレベーターがない場合も多く、高齢者にとっては大きな負担となる可能性があります。
実際に私が空き部屋を探していて見つけたのは、4階、5階の空きが圧倒的に多かったです。これはやはり入居者には高齢者が多く、下層階から埋まっていくことが原因の一つだと思いました。
そうした高層階(中層階?)の空き室を埋めるためか、URでは「無印良品」とコラボをして団地リノベーションプロジェクトを手掛けています。
このプロジェクトも素晴らしいものですし、実際ネットで見ると「ものすごくかっこよくてオシャレ」なリノベーションがされています。
UR賃貸住宅を検討する際のチェックポイント
これらの現実を踏まえ、高齢者がUR賃貸住宅を検討する際には、以下の点を特に注意深く確認する必要があります。

✅希望エリアの空室状況と競争率
URのウェブサイトなどでこまめにチェックし、空きが出たらすぐに申し込む覚悟が必要です。
✅家賃と周辺相場の比較:
URだからといって安いとは限らないため、周辺の民間賃貸物件とも比較検討しましょう。
✅築年数と設備:
古い物件の場合は、水回りや断熱性、耐震性などを確認しましょう。エレベーターの有無も重要なポイントです。
✅団地の雰囲気と管理体制:
可能であれば実際に足を運び、団地の雰囲気や入居者の層、管理状況などを確認しましょう。高齢者向けのサポート体制があるかどうかも確認したい点です。
✅再生プロジェクトの状況
再生が進んでいる団地の場合は、その方向性が自分のライフスタイルに合っているか検討しましょう。
まとめ:URも万能ではない、現実的な視点で検討を
UR賃貸住宅は、「保証人不要」など高齢者にとって魅力的なメリットがある一方で、人気の高さゆえの空室の少なさ、家賃の割安感がない場合がある、団地の再生が高齢者のニーズと合致しない場合があるなど、いくつかの注意すべき点があることが分かりました。
住宅セーフティネット制度と同様に、UR賃貸住宅も高齢者の住まい探しの万能な解決策とは言えません。
次回は、さらに他の選択肢についても検討していきたいと思います。
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